1. Hsp40およびその相同体に関する研究

@哺乳類Hsp40の発見、そのcDNAと遺伝子の単離

 われわれは、二次元電気泳動法を用いて、哺乳類細胞において、それまで同定されてなかった分子量約40-kDaの新しい熱ショックタンパク質、Hsp40を見いだした(1文献11)。そのcDNAをクローニングし塩基配列を決定した。その推定されるアミノ酸配列からHsp40は大腸菌の熱ショックタンパク質であるDnaJの相同体であることが判明した(2文献25)。またヒトおよびマウスのHsp40の遺伝子を単離し、遺伝子構造を明らかにした(3文献323642)。ヒトHsp40の遺伝子は染色体19p13.2に存在し、3つのエキソンからなる比較的単純な構造である。プロモーター領域にはheat shock elementHSE)配列があり、この配列を欠損させると熱ショックによる転写が誘導されなくなる。またこのHSEには熱ショック転写因子HSF1が結合する。したがってHsp40は真のHSPであり、熱ショックにより、HSF1-HSE依存的に転写誘導される。

AHsp40の細胞内局在、

 抗Hsp40抗体を作製し(ポリクローナル)、間接免疫蛍光法にて細胞内局在を検討した(文献222430)。37℃ではおもに細胞質に局在しているが、細胞を43-45℃の熱ショックにより核、核小体に移行する。細胞をふたたび37℃にもどすと、Hsp40は徐々に細胞質に戻ってくる。これはHsp70の動態とほとんど同じであり、特に熱ショックを受けた細胞ではHsp40Hsp70は共局在(colocalize)することがわかった(4)。

BHsp70/Hsp40の分子シャペロン機能

 大腸菌では、DnaKHsp70)とDnaJが共同でシャペロン複合体を形成して機能していることがわかっていたが、哺乳類細胞でも同様にHsp70Hsp40がシャペロン複合体として機能していることが、以下に述べるような実験系で示された。

 リボゾームで新規に合成されてくるポリペプチド鎖にHsp70だけでなくHsp40も結合しており、Hsp40を抗体で除去するとそのポリペプチド鎖の正しい折りたたみがうまくいかなくなることが示された(5文献26)。

 がん抑制遺伝子産物であるp53Hsp70と複合体を形成していることは知られていたが、Hsp40も一緒になって3者複合体の存在が確認された(文献27)。

 Hsp40Hsp70ATPase活性を促進するとともに、これらの両者が熱変性によって失活したルシフェラーゼの活性回復に必須であることが、試験管内および細胞内でも示された(6文献3135)。

 2つの神経変性疾患の細胞モデル(ポリグルタミン病の一つ球脊髄性筋萎縮症、家族性筋萎縮性側索硬化症)において、Hsp70Hsp40は共同して原因となる変異タンパク質の凝集体形成を抑制した(7文献4050)。

 中間系フィラメントの一つであるケラチン18Hsp70とともにMrjDnaJ相同体の一つ)も相互作用しており、Mrjがケラチンフィラメントの構築にも関与していることが示された(8文献45)。

 温度感受性変異のSV40 large T抗原をもつ細胞にHsp70Hsp40を導入して高発現させると、非許容温度(39℃)でも正常な機能を持つようになることが示された(9文献63)。

C哺乳類におけるHsp40 (DnaJ)相同体cDNAのクローニングと命名法の提案

 1990年代後半には、哺乳類のHsp40 (DnaJ)相同体が相次いで同定されたが、命名がばらばらで混乱していた。そこでわれわれは2000年に、この当時入手可能であったマウスおよびヒトのESTexpressed sequence tag)クローンのなかから新たなHsp40 (DnaJ)相同体を10個同定し、塩基配列を決定した。と同時に、Hsp40 (DnaJ)相同体の分類法と命名法を提案した(10文献3947)。この命名法は現在でも踏襲されている。

DHsp40 (DnaJ)相同体、DnaJB7、の機能解析

 哺乳類では約50個のHsp40 (DnaJ)相同体が存在することが知られているが、そのうちで機能未知の相同体についての機能解析を進めている。


2. 分子シャペロン誘導剤の探索、作用機構解析、および医学への応用

@新規分子シャペロンの探索

 分子シャペロンを適度に高発現させることで、生体をさまざまなストレスに対して抵抗性にすることができ、またタンパク質の折りたたみの異常が原因で引き起こされる種々の病気の予防や治療も可能である。そこで毒性のない化合物で分子シャペロンを誘導することができれば非常に有益であるとの考えのもと、漢方薬の成分をスクリーニングした。その結果、シャクヤクの主成分であるペオニフロリン(pseoniflorin)がほとんど毒性はなく、HSF1の活性化を介して分子シャペロンを誘導することがわかった(11文献59)。

A既知分子シャペロン誘導剤カルベノキソロンの再検討

 カルベノキソロン(carbenoxolone)は以前の論文では、Hsp70は誘導するが他のHsp90Hsp40は誘導しない、という結果であった。しかしこれは考えにくいので、再検討したところ、カルベノキソロンはHSF1を活性化し、Hsp70だけでなくHsp90Hsp40も誘導することがはっきりと示された(文献67)。

B分子シャペロン誘導剤の医学への応用

 ペオニフロリンはわれわれが新規に見いだした分子シャペロン誘導体であるので、個体レベルでも各臓器に分子シャペロンが誘導されるかどうかを検討した。マウス腹腔にペオニフロリンを投与すると、胃、脳、肝臓、心臓などにHsp70が誘導された。そこで、胃について、塩酸投与で胃粘膜傷害が引き起こされるが、あらかじめペオニフロリンを投与してHsp70を誘導しておくと塩酸による粘膜障害が顕著に防御された。ペオニフロリンは胃粘膜防護効果を持つ新しい薬剤としての可能性がある(論文投稿中)

 またペオニフロリンは各種臓器にもHsp70を誘導するので、現在、神経変性疾患モデルマウスにおいて症状を改善できるかどうかを検討中である。

トップページに戻る

C:研究の内容

(以下の文献番号は、D.研究業績の英文原著論文の番号に対応する)