研究紹介
4つの研究領域
研究室では、食品産業界で即戦力として役立つ技術者の育成を目指して、 実学を大切にした教育と研究を行なっています。 特に、多くの大学で希薄になっている“食品のものづくりの科学”の研究を重視して取り組んでいます。 主たる研究の柱は、(1)乳肉の高度利用技術の開発,(2)乳酸菌の新規応用技術の開発、 (3)美味しさに関わる香りの基盤研究、および(4)新しい乳肉加工食品の提案の4課題です。この領域に加えて、平成17年(2005)〜平成21年(2009)の期間、 植物バイオ研究センターのプロジェクト研究の一員として、“花の香りの研究”を行ってきました。 食品も、花も、香りに関連した研究は、今後の重要な研究領域と考えております。
食品の加工技術の研究
本研究では良質なタンパク質食品である食肉にヨーグルト、チーズなどに使用されている 乳酸菌の培養物をバイオプリザバティブ(天然抗菌剤)として利用し、安全で、美味しく、保存性に優れ、 しかも高齢者が食べやすいように食感を柔らかく設計した「非加熱のソフトジャーキー」の 加工技術について研究しています。高齢になると食感が硬いことから肉類の摂取を控える傾向にあり、 低タンパク食に伴う栄養不良に陥る危険性が指摘されています。 長寿者の食生活に共通するのは、適正カロリーと高たんぱく食です。 血中アルブミン濃度が高く、血清総コレステロール値が高過ぎず低過ぎずということが、 栄養が良好な状態であるといわれています。 食肉は必須アミノ酸8種類をバランスよく含む良質なタンパク質食品であり、 ビタミンB群(特に豚肉に多い)、体内での利用効率が高いヘム鉄、そして補酵素としての役目をもつ亜鉛の 供給源としても大切な食品です。 最近では食肉に含まれる機能性成分として、L-カルニチン、カルノシン、およびアンセリンなどの成分が見出され、 脂肪燃焼促進効果、抗疲労効果、抗酸化作用などの機能が解明され始めています。 高齢者の栄養不良を未然に抑止するためにも、食肉の適切な摂取は重要と考えられます。
また食肉中に乳酸菌を生残させて、ヨーグルト同様に生きたまま乳酸菌を摂取可能とする技術についても検討し、 保健的機能を付与したプロバイオティクス食品・バイオジェニクス食品へ展開する予定です。 本研究を通して、新しいタイプのジャーキーの提案と共に、乳酸菌培養物を利用した新規な加工技術や食品添加物の 開発へと波及することが期待されます。
食品香気の研究
食品の美味しさと品質の安定化は食品製造での最重要課題であり、 特に香りは美味しさの感覚を生み出す大切な要素です。 人や動物は香りを受容し、食べ物の良し悪しや美味しさを識別して感覚的に危険な食品を避けています。また植物が放出する多くの揮発性物質(VOCs)は、香料としての利用以外に、害虫の摂食阻害作用、 有害昆虫・微生物の忌避作用、殺菌作用、および花の香りによる受粉媒介動物の誘引作用などの効果を 有することが知られています。 このように食品・植物は多様なVOCsを放出し、VOCsの解析によって夫々の特徴付けが可能と考えられます。 本研究では、ヨーグルトやチーズを対象に、食品のVOCsの挙動と生成機構を明確にすることで、 食品の安全・安心、品質管理、美味しさの診断、 および食品製造の自動化技術などに応用可能な基盤となる研究を行ないます。
食品の開発
食肉製品では乳酸菌を利用した新規な「発酵ポークジャーキー」と「イノシシ肉の時雨煮」など、 乳製品では春日井市名産のサボテンをミックスした「サボテンヨーグルト」、 中部大学オリジナルの「ゴーダチーズ」、「コーヒー乳飲料」など、その他に、 低アレルゲン・クッキー「こめっきー」、「豆乳ヨーグルト」などの開発を進めています。 ヨーグルトやチーズの製造技術の研究は、食品香気の研究にも関連します。植物の香りの研究
平成17年(2005)〜平成21年(2009)の間、植物バイオプロジェクト 「植物の形・色・香を司る分子機構と分子育種の基盤的研究」 (私立大学学術研究高度化推進事業 学術フロンティア推進事業(文部科学省))で 香りの分野を担当。本研究では、植物体が放出する香りの成分をヒトの感覚による評価と機器分析の両面から行い、 主に生花の香りの分析システムの検討を行なってきました。 ラン科のフウラン及びコチョウラン原種などを対象として、生花の発散する揮発性成分の昼夜リズムを 詳細に観察し、花の香気の発散機構について分子生物学的研究の糸口をつくることを目的としました。 分析手法としては、ヘッドスペース‐マイクロ固相抽出‐GC-MS法、加熱導入装置‐GC‐におい嗅ぎシステム、 および新規捕集剤Mono Trap(GL Sciences)による花の香りの濃縮抽出法などの分析技術を確立し、 現在、食品の香りの研究に応用しています。