研究内容

研究背景

最近の私たちの健康・疾病構造

 近年の国民健康・栄養調査を見ますと、糖尿病、メタボリック症候群の増加は深刻な問題となっています。特に糖尿病は、年代別での割合で見ると、糖尿病が加齢により増加し、70歳以上が最も多いのです(同統計)。さらに遺伝子多型の解析などから、日本人は小太り程度でも糖尿病を発症しやすい体質を持つ人が多いことも指摘されています。また糖尿病は、網膜症や腎症、動脈硬化症などの合併症を伴います。以上の点から糖尿病の発症は、「長寿の質」を低下させる主要因の一つと考えられます。この対策としては、ライフスタイルの改善(食因子)の重要性が明らかです。


倹約遺伝子

  我々人類の歴史を紐解くと、「食」の面から考えれば、常に飢餓との戦いであったといえるでしょう。しかし現在、人類のみが唯一(無論、地球上の人類すべてではありませんが)飽食、過剰栄養に直面しています。人類が飽食に直面した時は、人類の誕生から現在までを24 時間とすると、ほんの最後の時間にすぎない、と言われています。このような背景から我々は飢餓に備えるためにできるだけエネルギーを貯蔵し、消費しないようにする体質を持とうとします。これは倹約遺伝子説として知られています。生き残るためには必要であったのです。しかし飽食の現代においては、この倹約遺伝子はむしろ逆効果となってしまいます。ヒトゲノムの解読がなされ、ゲノム全体の約0.1%の箇所に違い(多型)があることが分かってきました。この多型(SNPs)は倹約遺伝子にも関係があります。一方でDNA塩基配列の違いのみでは、「体質」を説明できないことも分かってきました(エピジェネティクスという研究分野が盛んになっています)。最近では種々の疾患に関わる遺伝子が次々に解明されていますが、これらの遺伝因子に加えて食事をはじめとする環境因子は重要であり、同時に遺伝因子との相互作用を研究する必要があるでしょう。

研究対象は?

図1 ヒト成熟脂肪細胞の顕微鏡写真(丸い円のようなものは脂肪滴である)。
図2 脂肪細胞は種々の生理機能に重要な物質を発現、分泌している。

 さて、肥満で思い浮かぶのは脂肪組織(脂肪細胞)です。図1はヒト成熟脂肪細胞の顕微鏡写真ですが、これまで脂肪組織(脂肪細胞)は単なる脂肪の貯蔵場所である、としか考えられていませんでした(図1)。

 ところが最近の研究からこの脂肪細胞は、貯蔵場所という役割だけではなく、むしろ最も重要な内分泌細胞だったのです。つまり脂肪細胞は体の機能に重要なホルモン(アディポサイトカインと呼びます)をたくさん分泌し、健康維持にも大きく関わることが分かってきました(図2)。

 まさに「脂肪細胞の不思議」といえるでしょう。肥満は脂肪細胞の肥大化ということになるのですが、このことは脂肪細胞の正常な機能を破綻させてしまいます。最近では、「なぜ太ると糖尿病になってしまうのか?」が分子レベルで研究されています。簡単に述べますと、肥満により脂肪細胞が「炎症状態」になる結果、脂肪細胞の機能が低下して、アディポサイトカインの発現・分泌異常を引き起こし、糖尿病発症の一因となることが明らかになってきました。このような背景から、我々が食品機能学の立場からできることは、食品によりこれらを制御して予防につなげる、ということです(図3)。


図3 肥満による脂肪細胞の炎症は脂肪細胞の機能を破たんさせる。

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