研究内容

これまでの研究成果

 我々はこれまでに果実、野菜等に含まれる植物色素のアントシアニン(図4)をはじめとする種々の食品因子の抗肥満作用や糖尿病予防作用とそのメカニズムを研究しています。研究成果を生かし社会へ還元するために、産業界との連携を重視しており、現在進行中の研究も産業界、他大学との共同研究で進めています。これまでの研究を紹介します。

1. 色の成分が効く(植物色素アントシアニン)

図4 アントシアニンを含む食品とその化学構造の例

  アントシアニンとは、代表的なフラボノイド系の植物色素の一つです。ブドウやリンゴ、イチゴ、ブルーベリー等の果実、ナス、シソ、マメ種子の美しい赤色や紫色はアントシアニンによるものです。また花の色も、その多くはアントシアニンを含んでいます。アントシアニンの研究は、これまで化学的な研究が主流であり、花の色の構造と色調、色の発現と安定化についての究明が行われてきました。また植物のアントシアニン生合成系の遺伝子とその発現制御機構が明らかにされ、園芸面から遺伝子工学的手法による花の色の変換についての研究も行われています。青いバラが市販されるようになったことは、記憶に残っているのではないでしょうか?食品化学分野では、果実類の加工保存中における色調の変化と安定性や天然着色料としての応用についての研究が行われてきました。アントシアニンは食用色素としてもすでに多くの種類が開発され、実際に食品の着色に用いられているものです。しかし生理機能成分としてのアントシアニンの研究は他のフラボノイドと比較すると後発でした。その理由としては、アントシアニンが、特殊な構造を持つことに関係しています。

 一般にアントシアニンは一部の種類を除き、中性領域では不安定で速やかに分解、退色するため、他のフラボノイド類のような機能を発現するとは考えられてきませんでした。しかしながらアントシアニンは、我々の研究グループを中心に行われた研究の結果、酸化ストレスの抑制など種々の生理作用を有することが明らかになっています。ここで少しアントシアニンの化学を述べてみます。なお、以下の内容は、編著「アントシアニンの科学」−生理機能・製品開発への新展開− 建帛社刊が参考になります(中部大学図書館にもあります)。

1-1 アントシアニンとは?

 アントシアニンは、一般には植物中では糖と結合した形(配糖体)として存在し、色素本体である糖以外の部分(アグリコン)は、アントシアニジンと呼ばれています(図4)。アントシアニンは、B環の置換基、結合糖の種類と数、アシル基の有無により多くの種類があります。またその色調は、B環の置換基により異なり、水酸基の数が増加するに従い、深色化し、メトキシル基の存在は浅色化をもたらします。アントシアニンは、強酸性では、フラビリウム型といわれる構造をとり、赤色を呈し、比較的安定ですが、弱酸性、中性領域では、水分子と反応して無色のプソイド塩基に変換し、不安定です。アントシアニンは、穀類、いも類、野菜類、豆類、果実類等、我々が常食している多くの植物に存在していますが、B環に水酸基を2個持つシアニジン系の分布が最も広く、デルフィニジン系がこれについでいます。アントシアニンの含量は、植物や品種により大いに異なり、収穫時期によっても異なります。

1-2 アントシアニンによる体脂肪蓄積抑制

 我々はアントシニンの新たな生理機能開発を目指しており、その一つとしてメタボリックシンドローム予防の観点から検討しています。興味深いことに、マウスにおいてアントシアニンの摂取は食餌摂取量に影響を与えずに高脂肪食により誘導される体脂肪蓄積抑制、脂肪細胞の肥大化、脂肪肝、高血糖などを抑制します(図5)。さらに脂肪細胞を用いて種々の研究を展開しており、これらの研究の一部はDNA マイクロアレイを活用した研究も行いました。


図5 アントシアニンの摂取は脂肪細胞の肥大化、脂肪肝の生成を抑制する。

1-3 アントシアニンの糖尿病に対する作用

 アントシアニンの中でシアニジン 3-グルコシド(C3G)は、私たちの研究グループが長年研究してきましたが、このC3Gによる高血糖抑制、インスリン感受性の上昇作用のメカニズムは、レチノール結合タンパク質4(RBP4)の発現・分泌抑制により説明できることを明らかにしています。

 2型糖尿病モデルマウスである、KK-Ayマウス(遺伝的に糖尿病を発症するマウス)にC3Gを摂取させますと、体重や飼料摂取量には変化がありませんが、血清グルコース濃度の低下とインスリンに対する感受性を改善します。

 この作用メカニズムの一つとして、アディポネクチンの関与が考えられます。アディポネクチンは脂肪細胞特異的に発現しており、肥満や糖尿病で低下し、エネルギー消費促進やインスリン抵抗性の改善作用を有する重要なアディポサイトカインの一つです。しかしながらC3Gを摂取したKK-Ayマウスにおいて、白色脂肪組織のアディポネクチンの遺伝子発現量と血清濃度には有意差が認められませんでした。

図6 C3Gの高血糖抑制・インスリン感受性上昇作用の推定メカニズム(Sasaki, R. et al. Biochem. Pharmacol. (2007) 74: 1619-27. )

 そこで、血糖低下作用に関わる他の可能性を検討しました。2005年にYang,GrahamらはRBP4が新たなアディポサイトカインとして2型糖尿病の発症にリンクしていることを明らかにしています。RBP4は脂肪組織においても発現しており、その発現上昇とグルコース輸送体4(Glut4)の発現低下は、末梢組織でのインスリン感受性の低下や肝での糖新生上昇を促進し、高血糖を誘発します。但し、ヒトにおいてもRBP4がバイオマーカーとなり得るかは、いまだ結論がでていませんが、私たちが用いたマウスの系では、RBP4からそのメカニズムを説明することができます。RBP4の白色脂肪組織、肝臓の遺伝子発現量と血清濃度を検討したところ、C3G群において、白色脂肪組織の遺伝子発現量が有意に低下し、血清濃度についても有意な低下が認められました。一方肝臓における遺伝子発現量には差が認められませんでした。このときのGlut4タンパク質の発現は、細胞全体、細胞膜上のいずれも2倍以上に上昇していました。さらに肝臓での糖新生関連酵素の発現の低下も認めました。

 以上の結果、C3Gの糖尿病抑制効果は、脂肪組織において、C3G によるGlut4発現上昇とRBP4の発現低下から説明できることを明らかにしました(図6)(Sasaki, R. et al., Biochem. Pharmacol. (2007) 74: 1619-1627.)


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